予審終結決定書 和田久太郎 村木源次郎 古田大次郎 倉地啓司 新谷與一郎

主文 被告人久太郎、大次郎、啓司及び與一郎に対する本件を東京地方 裁判所の公判に付す 被告人源次郎に対する本件公訴はこれを棄却す 理由 被告人久太郎源次郎は何れも無政府主義の巨頭大杉栄に私淑し豫つ て無政府主義を奉ずる者なる所大正十二年九月一日突如帝都に襲来 したる震火災に因り帝都の大半焦土と化し人心の動揺甚しかりし為
直に戒厳令司令官の発布となり戒厳司令官陸軍大将福田雅太郎指揮 の下に之が治安を維持すると為りたるが引続き鮮人襲来社会主義者 の妄動等に関する流言蜚語行はれ民心極度の不安に陥りたる混乱裡 中戒厳司令官の下に帝都の治安維持に任じ居りたる憲兵の一部に依 り大杉栄が殺害せられたることを知るや
右被告人両名は何れもこれを以つて 右福田戒厳司令官及び時の警視庁官房主事正力松太郎の使嗾に出づ るものと為し
心密かに該両名を殺害してこれに報復し大杉栄の霊を慰むる所あら んと決意し各其機会を覗い且つこれに要する兇器の入手に腐心し居 りたる折から
被告人大次郎及啓司も亦被告両名と同様大杉栄に私淑し無政府主義 に共鳴する所あり曩に中濱哲事富岡誓、河合康左右、小西次郎、小 川義雄、内田源太郎等と共に東京及大阪方面に於て専ら富豪及会社 重役等より金品を強請し同年十月大次郎等が大阪府中河内郡布施村 所在第十五銀行玉造支店小阪出張所員角田芳蔵浅田實之助両名が行 金一萬二千円在中の鞄及勧業債券国庫債券等在中の折鞄各一個を携 へ
……共犯人の一部大阪市北区天満警察署に検挙せらるゝに至りたる を以つて被告人大次郎は東京に逃げ帰り更に富岡誓と共に朝鮮に遁 避し京城黄金町二丁目十八番地に三宅勇一なる偽名の下に一戸を構 へ
該所に潜伏すると同時に同志を検挙したる天満警察署を爆破して報 復を為さんと注意し朝鮮の社会主義者金善姫等に委嘱支那方面より 爆弾及びピストルを入手せんとしたり
[啓司は広島県下に遁れ] [久太郎、源次郎は右大次郎等の朝鮮に於ける爆弾入手の計画を知り 大正十三年三月頃同人等に対して該爆弾の分与を求めたるより同人 等は
右久太郎等の大杉栄殺害に対する報復の計画を知りこれに参加しこ れに応ずることを約し被告人啓司も亦同月中当時内地に立帰り居り たる富岡の招電に依り前記工事場より大阪市に立戻り同人と会し… …
【倉地啓司の動き】……富岡誓が同月卅一日大阪にて逮捕されたる 為め啓司は京城に至りてこれを同地に在る被告人大次郎に報告し相 伴ひ東京に引返し被告人源次郎及び久太郎等と相会して其善後策を 講じ爆弾等の兇器入手の資金調達に奔走したるも調達意の如くなら せりしより
被告人啓司は右工事場に於てはダイナマイトを多量に使用し居り其 の摂取容易なるより寧ろ同所より(十二字削除)を摂取し来りこれを 使用して被告人等の手許に於て爆弾の製造を試むるに如かずとなし 茲に大次郎と相謀り再び同年六月上旬啓司は単身広島県下に赴き……
七月中旬これを携帯して東京市に立帰り被告人大次郎と共に東京府 下平塚村上蛇窪五三二番地に島貞尚なる偽名の下に一戸を借受け同 所に於て(十二字削除)並に曩に被告人が前記工事場に雇はれ中持ち 帰り置きたる……【爆弾使用、谷中、青山墓地】
一方啓司は東京府下大山街道の山中に到り該爆弾を投擲したるも発 火装置の不完全なりしため爆発するに至らざりしも此分を除き他は 執れも相当其成績良好なりしを以つて更に(五行削除)其威力を強大 ならしめんが為め
同月卅日頃被告人啓司は京阪地方に赴き大阪市南区水崎町七百十九 番地逸見吉三方に於て被告与與一郎と面会し
右福田大将及び正力元警視庁官房主事暗殺の計画を告げ該暗殺用と しての爆弾に使用する(二行削除)を依頼し
被告人與一郎又之に賛同の上其の後計画を作成し其製造資金調達の ため八月上旬相共に前記上蛇窪の隠れ家に来りたる際……
【山田正一等、中浜脱獄計画、大次郎方に来訪、同志を前記北区支 所より脱獄せしむる計画あることを語り爆弾の分け前を懇請したる より大次郎に於て之を承諾したることを聞き被告人啓司も亦之を応 諾したるが又一面被告人源次郎及び久太郎の両名は(二行削除)を携 へ福田大将の在邸の時を期し
【爆弾使用の目的、福田宅を狙う】同月十一日頃被告人大次郎に右 爆弾三個の製造を依頼したるより茲に
【中止】偶々大杉栄の遺子ネッスル死亡の報に接し源次郎が急遽福 岡に赴き数日の後帰京した為め右目的の遂行延引し居りたる内被告 人與一郎は前記目的に使用する製造に従事する為め(五十行削除)同 月十九日頃一旦帰路の上京都府(一行削除)工場を借受け同月廿三日 頃より同月廿九日頃迄の間に該工場に於て(三行削除)を製造したる 上其完成の旨を被告人啓司及び大次郎に通報した右通報により啓司 は直に之が受取の為上洛したるが…同月二六日第三回元帥軍事参議 官会議の開催あるを知りたるより福田大将が該会議に列席する途上 を擁して之を殺害せんとし…
【新聞記事誤報、失敗】 【九月一日講演会、實弾の装填しある五連発ピストル】 【和田久太郎の行動】 【逮捕を遺憾とし】 【本富士警察署に爆弾を投付けて之を爆破し因つて以つて報復を為す と同時に人心を動揺せしめんことを決意し】 【同月三日午後六時頃…夜九時頃、潜入】 【爆弾を郵送せんと決意】 【小包爆弾の郵送】 【銀座四丁目電車軌道に差し置き】 【法律適用】
大正十四年三月六日 東京地方裁判所予審判事 沼義雄 |